公開日:2023年2月8日/更新日:2024年8月27日
監修:遠藤まなみ(代表カウンセラー)
フラッシュバックとは?「PTSDの再体験症状」で過去に体験した強い記憶(トラウマ記憶)が突然鮮明に蘇る状態
フラッシュバックとは、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の再体験症状とされていて、過去に体験した強い記憶(トラウマ記憶)が突然鮮明に蘇る状態を指します。
フラッシュバックを簡単に表現すれば、過去の嫌な記憶(災害、事故、暴力、虐待、恐怖、ストレス、不安、いじめなど)が後々になって瞬間的にかつ非常に鮮明に思い出してしまう現象です。
また、その現象は寝ている時に夢を見るという形でも起こります。
フラッシュバックは、主に「心的外傷後ストレス障害(PTSD)」や「急性ストレス障害」の特徴的な症状のひとつで、無意識に思い出された嫌な記憶がさも現実に起こっているかのような感覚、またそれが非常に激しい状態の場合に使われます。
フラッシュバック中は、現実の世界とのつながりが難しくなることがあり、その当時の加害者や災害、事故などが物理的に目の前に存在しているように感じることもあります。
さらにフラッシュバックは、過去のトラウマ記憶が突然鮮明に蘇るケースだけでなく、
- 人の話す言葉や会話。
- 視覚(人影など)。
- 音(ドアが閉まる音、食器が割れる音など)。
- 匂い(お酒、アルコールなど)。
- 身体感覚(体をぶつけるなど)。
など様々なケースで非意図的に引き起こされます。
フラッシュバックが起こることで、ストレス障害から不安感やうつ状態(抑うつ気分)を引き起こし、学校や仕事に行くことが困難になり社会生活に大きな支障をきたす場合があります。
起きる原因は?過去の嫌な記憶(災害、事故、暴力、虐待、恐怖、不安、いじめなどの経験)によるストレス反応
フラッシュバックは、PTSD(心的外傷後ストレス障害)がもたらす症状のひとつです。
PTSDの症状はフラッシュバックだけでなく、
- イライラする。些細な事で怒る。
- 攻撃的になる。すぐに取り乱す。
- 心が無感覚になり何も感じない。
- 喜怒哀楽の表現が鈍くなる。
- 孤立感。集中できない。眠れない。
など様々です。
そもそもPTSDを発症する原因としては「強い恐怖」や「大きなショック」といったストレスが挙げられます。
たとえば、
- 生死に関わるような大きな災害に遭った。
- 予期しない危険な事故(怪我など)に遭った。
- 幼少時代に親から暴力や虐待を受けていた。
- 事故や死傷の現場を目撃し恐怖心を抱いた。
- 子供の頃、学校で苛烈ないじめを受けていた。
などといった通常の範囲を超えた経験が、心に深い傷(トラウマ)を残しフラッシュバックという形で現れます。
フラッシュバックが起こることで過去の記憶が蘇るだけでなく、実際にその出来事を再び体験しているような感覚に陥ります。
また夢の中でフラッシュバックが繰り返されることで、睡眠障害や集中困難といった症状も現れます。
さらに、ちょっとしたことで驚いたり怒ったり、そうかと思えば急に泣き出したりするなど、落ち着きや感情コントロールが難しくなります。
そしてフラッシュバックと連動し、PTSDを発症した半数以上の人が、うつ病や不安障害などを合併しています。
症状が悪化すると、楽しみへの関心も薄れ、幸福感や満足感も感じられなくなり、人との交流にもネガティブな感情を抱くようになります。
それにより社会生活が困難になり、日々の生きづらさを感じるようになります。
フラッシュバックが発動する「10のトリガー」とは?セルフチェックで自己分析してみよう!
それでは、フラッシュバックが起きる可能性があるトリガー(発動のタイミング)を紹介します。
フラッシュバックを経験したことがある人は、どのようなタイミングで発症したのか?自分に当てはまる項目があるかセルフチェックしてみましょう。
- トラウマとなった出来事が起こった場所に来た時、または通り過ぎた時。
- 過去に受けた災害(地震、火事、土石流、雪崩、津波など)の映像を見た時。
- 映画やドラマなどで、子どもが暴力や虐待を受けるシーンを見た時。
- 過去のトラウマとなった加害者、もしくは加害者を連想される人に会った時。
- テレビのニュースなどで危険な事故(交通事故、墜落事故など)の映像を見た時。
- 自分のトラウマとなっているものに関連する本を読んだり、音楽を聴いた時。
- リラックスタイムで心がホッとしたタイミングで急に過去の辛い体験、感情が蘇る。
- 自分にとって嫌な記憶を呼び起こすような会話(言葉)を聞いた時。
- ある特定の食べ物(焼肉、焼きたてのパン、揚げたてのコロッケなど)を食べた時。
- ある特定の匂い(食べ物、建物、香水、アルコール、体臭など)を嗅いだ時。
セルフチェックの結果はいかがでしたか?
フラッシュバックが起こるケースでの大きな特徴としては「五感の記憶」が深く結びついています。
この「五感の記憶」とは、
- 視覚(目で見た場面の記憶)
- 聴覚(耳で聞いた音の記憶)
- 触覚(手や体で触れた感覚の記憶)
- 嗅覚(鼻で嗅いだ匂いや香りの記憶)
- 味覚(口で飲食した風味や味の記憶)
を指します。
もちろん人によってフラッシュバックが発症するトリガー(発動のタイミング)は様々ですが、共通して言えるのはこの「五感の記憶」により過去の嫌な体験を思い出すケースが非常に多いということです。
克服するにはどうすれば良い?改善方法と回復への取り組み方を徹底解説!
フラッシュバックを克服するには、過去における嫌な記憶と向き合い、PTSDそのものを克服していく必要があります。
そのためには、普段の日常生活に安心感や心の余裕を持つ環境を作ることが重要です。
また自分ひとりだけでなく、信頼できる協力者と二人三脚で心の中に潜むトラウマ反応を認識していく必要があります。
具体的なアプローチとしては、
- トラウマとなった過去の辛い体験を思い出し、自分の言葉でしっかりと話す・紙に書き出す。
- 辛い出来事は「自分の責任」という強い罪悪感を払拭するための認知処理療法(CPT療法)を行い、ものの受け止め方や考え方を根本から変える。
- PTSDの原因となったトラウマ体験を思い出すことを回避せず、これまで避けてきた過去の記憶に向き合い、それを何度も繰り返すことで不安感をなくしていく。
この3つのプロセスが大切になります。
簡単に言えば「トラウマとなった過去の嫌な体験を把握し、当時とは違った受け止め方や考え方をもって、強い気持ちで自分と向き合う」というものです。
ただここで挙げたプロセスを自分一人で進めていくのはとても困難です。
できることなら周囲の信頼できる人や専門家の協力を得て進めていくことが効果的です。
それではフラッシュバックの克服についての具体的な取り組み方を紹介します。
①心療内科や精神科を受診する
過去の辛い体験のことなどすっかり忘れたつもりでいても、ふとした時に過去味わったトラウマ体験の感情が一気に蘇ります。
- 情緒が不安定。
- 緊張や恐怖が続く。
- 常にイライラする。
- 警戒心が強くなる。
- ぐっすり眠れない。
といった症状が断続して現れる場合は、薬物療法と心理療法の両面からアプローチできる専門の心療内科や精神科を受診しましょう。
PTSDの分類(急性、慢性、発症遅延型など)を明確に分類し適切な治療を進めていくことで早期回復が見込め、二次的な障害(うつ病や不安障害など)を防ぐことも可能です。
②カウンセリングを受ける
フラッシュバックはPTSDだけでなく発達障害でも起こる症状です。
なんとか改善していきたいが薬物治療には少し抵抗がある、もしくは心理的なアプローチで自分の内面から克服していきたいというケースもあります。
そういう場合は、臨床心理士や心理カウンセラーに相談してみましょう。
PTSDの治療で最も効果があると言われているのが、トラウマを扱う認知行動療法で、
- 持続エクスポージャー療法(PE)
- 認知処理療法(CPT)
- 眼球運動脱感作療法(EMDR)
といった代表的な心理療法があります。
③セルフアプローチで克服する
フラッシュバックに対して、
- 心療内科や精神科で受診するには抵抗がある。
- 臨床心理士や心理カウンセラーに相談するのにも抵抗がある。
- あまり人の手は借りず自分自身でなんとか克服したい。
という場合は、自分自身で分析して対応する方法もあります。
具体的には、
- フラッシュバックが起きた時の状況をすべてノートに書き出す。
- フラッシュバックが起きやすいトリガー(発動のタイミング)を毎回記録する。
- 緊張状態をほぐし、リラックスできるような環境づくりや精神面が安定するようなトレーニングを行う。
- 信頼し安心して話せる人との会話を増やす。
- 住居や転職など、生活に関わる環境を大きく変える。
- 無料で相談できるカウンセリング機関などに相談する。
といったアプローチを行います。
これらを繰り返していくことで、自分自身の感情や思考のコントロールができるようになり、それがフラッシュバックやPTSDの改善につながっていきます。
難易度は高く効果が確認できるまでに長期の時間が必要ですが、自分のペースで実践できることもあり、自分の力でなんとかしたいという人にはおすすめの方法です。
フラッシュバックを改善することができた体験者のエピソード
それでは、フラッシュバックの症状で悩み苦しんだ経験を元に、今の自分を変えようと行動した体験者の声を3つ紹介します。
それぞれのエピソードを読んで、フラッシュバックの改善に向けた情報として参考にしてみてください。
①治療を続けて6ヶ月くらいでこういった症状もなくなり、いつも緊張感に包まれているような不安な感覚も薄れてきました。(千葉県在住 20代後半女性)
私は子供の頃、父親から虐待を受けていました。
私は父親とは血が繋がっていないということもあるのかも知れませんが、特に機嫌が悪い時には殴る蹴るはもちろん、竹刀で叩かれることもあり、また無視されるといったネグレクトもありました。
その後、事情により16歳で児童養護施設に入ることになったのですが、その頃からPTSDやフラッシュバックの症状が起こるようになりました。
たとえばふとしたタイミングで過去の虐待(暴力、暴言、ネグレクトなど)が鮮明に蘇ったり、夜寝る前に「今の安心した生活を父親に壊されるのではないか」と不安になったりするようになりました。
そんな状況がしばらく続いていた時、私の精神が乱れた状態を気にしてくれていた施設の心理療法担当職員の先生が、心療内科への受診をすすめてくれました。
病気や怪我をしているわけでもないので、正直言って病院に行くのは少し抵抗がありました。
でもいつも心配してくれている先生が背中を押してくれたこともあって専門の心療内科を受診しました。
結果は「心的外傷後ストレス障害(PTSD)」と診断され、薬物療法と心理療法を受けることになりました。
治療を受ける前は、いつも不安でパニック症状が出たり、感情が抑えられずイライラしたり怒ったりということが多くありました。
でも治療を続けて6ヶ月くらいでフラッシュバックの症状もなくなり、いつも緊張感に包まれているような不安な感覚も薄れてきました。
この先また同じ症状が起きるか自分では分かりませんが、きちんとした治療を受けて心から安心した生活ができるようにしていきたいです。
②いつの頃からか過去の嫌な想い出(両親からの精神的虐待や中学時代に受けたいじめなど)が突然鮮明にフラッシュバックで蘇るようになりました。(神奈川県在住 30代前半男性)
私は生まれつき身体障害者(機能障害)です。
子供の頃、私は両親から精神的虐待を受けていました。
「愛情」「しつけ」「お前のため」という言葉を盾に、日常生活に関するありとあらゆること(行動や態度、考え方など)について厳しく指摘されてきました。
時には笑いながら馬鹿にされたり、けなされたり、ひどく怒鳴られたりすることもありました。
当時はそれを虐待だとは知らず、「すべては自分に責任がある」「私は両親から愛されていない」「良い子にならないと褒めてもらえない」という感情が頭の中にありました。
そして20歳を過ぎた頃から「早く死にたい」と考えるようになり、精神科を受診し薬を飲みながら過ごす日々が続きました。
それでも症状は良くならず、いつの頃からか過去の嫌な想い出(両親からの精神的虐待や中学時代に受けたいじめなど)が突然鮮明にフラッシュバックで蘇るようになりました。
この当時は毎日の生活が辛く感じ、他人を信じることができず恐れるようになっていました。
ただ私はその頃から、ある本を読んだきっかけでスピリチュアルに興味を持つようになっていました。
自分の中にあるもう一人の自分に、何かしらのアプローチをすることで精神的な苦しみから逃れられるかも知れない。
そんな思いから、専門の心理カウンセラーに相談しました。
以前に治療を受けた経験から、薬物療法には抵抗があったからです。
フラッシュバック発症の元となるPTSDの治療として、認知行動療法をメインとした精神療法を受けました。
過去のトラウマ体験をあえて呼び起こして、その恐怖を自分自身で乗り越えていくという方法です。
はじめは恐怖心で一杯でしたが、専門家であるカウンセラーさんのおかげで、過去のトラウマ経験を少しずつ理解、整理できるようになってきました。
今ではフラッシュバックの症状は起こらなくなりましたが、いつ再発するか分からないという思いもあるので、自分でもメンタルケアができるよう色々と学んでいきたいと思います。
③精神的にリラックス状態にしておくのは簡単ではありませんが、私の場合は専門の機関でメンタルトレーニングを受けるようにしていました。(福岡県在住 20代後半男性)
私は自閉症スペクトラム障害(ASD)を抱えて生まれてきました。
子どもの頃から人見知りが激しく、友だちもできない、また極度のコミュニケーション嫌いで誰かと接することに苦痛を感じていました。
そんな障害特性の影響もあり、小中学校、高校時代は壮絶ないじめの被害に遭い続けていました。
大学に入ってからはいじめを受けるようなことはなくなりましたが、その頃から過去のいじめの記憶が激しくフラッシュバックするようになりました。
不安や恐怖でパニック状態になることもあり、このままではいけないとフラッシュバックが起きたことを母親や大学の知人などに話すようにしていました。
しかし状況は変わらず、さらにフラッシュバックが頻繁に起こるようになりました。
私は精神科に相談し、治療を受けることにしました。
その先生によると「トラウマ体験を話せば話すほどフラッシュバックは起こりやすくなる」ということでした。
私は先生のアドバイスを元に薬物治療ではなく、自分でフラッシュバックを克服しようと考えました。
実践したのは、
- フラッシュバックの状況を人に話すのではなく、専用のノートに書き出す。
- フラッシュバックが起きるタイミングを把握する。
- 普段から精神的にリラックスできる状態にしておく。
といったものです。
精神的にリラックス状態にしておくのは簡単ではありませんが、私の場合は専門の機関でメンタルトレーニングを受けるようにしていました。
今ではフラッシュバックを克服することができ、不安や恐怖でパニック状態になることもなくなりました。
自分に何か異常があると感じた時は、自分だけでなんとかしようとせずに必ず専門機関に相談することが大切だと思います。
【まとめ】フラッシュバックを克服できるかどうかはあなたの決意と行動次第!過去の嫌な記憶に囚われない生き方を手に入れることは可能!
フラッシュバックは、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の再体験症状で、過去のトラウマ記憶が突然鮮明に蘇る非常にやっかいな症状です。
では過去に嫌な体験をしてトラウマになってしまったからといって、全員がPTSDになりフラッシュバックを発症させてしまうのでしょうか?
決してそんなことはありません。
またPTSDになる人は、心の弱い人ということなのでしょうか?
これもそうではありません。
アメリカの最新の研究では、どんな人がPTSDになりやすいのかがある程度解明されています。
PTSDやフラッシュバックのリスクを高める要因としては、
- 危険な出来事やトラウマを生き抜く。
- 災害や事故で怪我をする。
- 他人が傷つくのを見る、死体を見る。
- 子ども時代のトラウマ体験。
- 不安、無力感、極度の恐怖を感じる。
- 社会的支援を受けられない。
- 愛する人の死、体の不調や痛み、仕事や家を失うなどのストレス。
- 精神疾患、または宅物乱用の病歴がある。
といったものが挙げられています。
しかし同じような経験をしても、PTSDやフラッシュバックの症状が起こる人と起こらない人に分かれます。
この違いは、「個人の感受性」と「心理的機能レベル」によるものだと言われています。
簡単に言えば、人それぞれの心の中にあるコップの大きさの違いのようなもので、そのコップ(感受性と心理的機能レベル)に対してどれくらいの水(ストレス)が注がれたかというイメージです。
たとえば小さなコップでも注がれる水が少なければこぼれませんが、大きなコップでも注がれる水が多ければあっという間に溢れてしまいます。
大切なことは、フラッシュバックを発症してしまった事実を認め、自分と向き合い、改善するための行動をいち早く取るということです。
もちろん不安や恐怖といった感情に襲われることもあると思われますが、フラッシュバックの原因となっているPTDSの治療は、早ければ早いほど回復も早く、二次的な障害(うつ病や不安障害など)を防ぐことも可能となります。
また症状に向き合って治療をするのと同時に、辛い感情状態になっても自分である程度対応できる術を学習(トレーニング)しておくことも重要です。
あなたの人生はあなたにとって一番大切なものです。
その大切な人生を楽しくするのも辛くするのもあなたの考え方ひとつで決まります。
もし今のあなたが、フラッシュバックをはじめとした不安や恐怖、PTSDの症状で悩んでいるとしたら、ほんの少しの勇気を出して、今すぐ信頼できる誰かに相談して下さい。
今のままでは、おそらく何も変わることはないでしょう。
過去の嫌な記憶に囚われない生き方を手に入れることができるかどうかはあなたの決意と行動次第です。
この記事があなたの心を楽にし、未来への希望を与えることができれば幸いです。
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